;;背景『電気街』  ;;BGM『日常曲をひとつ』 [稔]「まさか電子ジャーが故障するとはな……」 [稔]「食卓に呼び寄せといて、肝心の米が炊けてなかった時の 姉さんのあの怒りぶりといったらもう……!」 ;; 回想っぽく [ひめ]「稔くん、ひめがこんなごはんを食べれると思ったの……? ひめがおなか壊して死んでもいいっていうの?」 [ひめ]「一度目は許してあげる。でも夕ごはんにちゃんとしたごはんが 出てこなかったら、……どうなるか分かってるよね?」 [稔]「……きっとまた新薬の実験台にされるんだ。ああっ恐ろしいっ」 ――そう、うちの姉さん、ああ見えて化学部の部長を務めていたほどの ケミカル大好き人間なのである。 昔から、惚れ薬を作るんだといいながら、チョウセンアサガオや イモリの黒焼きといった、危険な物質の実験台にされかけてきた。 ――いや実際、ちょこっと飲んだこともある。 最近はちゃんとした科学的根拠を求めるようになってきて、 よくわからない物質を扱うことは減ってきたけれど……。 ふりふりにデコレーションされた姉さんの部屋に鎮座する薬品棚には、 学校からくすねたらしい劇薬の類が平然と並んでいて、それを目にするたびに 過去の痛ましい記憶がよみがえり、背筋にぞっと冷たいものが通り抜けるのである。 [稔]「買わないと……機種なんてどうでもいい。とにかく、今日中に新しいジャーを 買わないと、今度こそ命が危ない……」 [稔]「さて、とりあえずは量販店行けばいいよな。……あれ」 [稔]「みずきか、新しいゲームでも買いに来たのかな」 みずきのゲーム好きは学校でも有名だ。 噂では家庭用ゲームに飽き足らず、アーケードの方にまで造詣が深いらしい。 ゲーセンでは無敵の女王として有名だとか。 [稔]「そうだ、買い物が終わったら、二人でゲーセンでも行くか」 [稔]「おーい、みずき……」 [稔]「ん? なんか様子がおかしいな。きょろきょろこそこそしてやがる」 [稔]「ははーん、何か人に言えないものでも買うつもりか? よーし、尾行してやれ」 [みずき]「誰も……いないよね、よしっ」 ;; 足音 [稔]「お、入ってったぞ。――『百石電商』? 何の店だろう」 ;; 背景:パーツ屋 [稔]「何だ? この店。 ブレッドボード……? センサモジュール、ソーラーパネル……。 なんかの部品屋みたいだな」 [稔]「お、なんだこれ。電子工作シリーズ……レッツピアノ? へー、ちっちゃな電子ピアノみたいだな。オルゴールにもなるのか。 こんなの、自分で作れるんだなあ」 ;; 選択:誰に作ってあげるか:選択肢:みずき、伊万里、ひめ、先輩 ;; 稔->選択されたヒロインへの恋愛度+1 [稔]「誰かにちょっとプレゼントするのにいいかも知らんな。 例えば――」 [稔]「しかし、こんな店で何を買うつもりだ? あいつ。 標準的な女子高生にはおおよそ縁のないところだぞ」 [稔]「……まさか、また誰かのパシリでも引き受けてるんじゃないだろうな」 [稔]「ここからだとよく見えないな……」 [稔]「……」 [稔]「今の俺って、傍から見たら立派なストーカーだよな。 店員さんに見つかったら通報されたりして……」 [稔]「そうだ、みずきに見つかったらなんて言おう」 [稔]「……」 [稔]「『いや、偶然見かけてな。ちょっと追いかけてきたんだ、はっはっは〜』」 [稔]「……それなら声かけるのが普通だよなあ。 無言で追いかけてくるなんて、自分がストーカーだって認めるようなもんだ」 [稔]「っと、みずきのやつ、奥の方に行ったな。よし……」 ;; 静か目の足音 [稔]「確かこの棚を見てたような――」 [稔]「コンデンサマイク……小型スピーカー……。 音響系の部品か? 何に使うんだ?」 [稔]「……やっぱり、クラスメイトの男にでも頼まれたんだろうか」 [稔]「もしそうなら……俺は……」 ;; 選択肢 [> 相手を牽制する [> みずきに注意する [>傍観する ;; [> 相手を牽制する(→2/5前に影響) [稔]「みずきに誰彼かまわずパシられてるんじゃねえって言ったところで、 どうせ聞かないよな……今のあいつは特に」 [稔]「あまり下の学年のことに介入するつもりはなかったが、 考え直した方がいいのかもしれないな……」 ;; [>みずきに注意する [稔]「本気でみずきを諭した方がいいのかもしれないな。 今のあいつは……どう考えてもやりすぎだ」 [稔]「……相手に尽くしてばっかじゃ対等な関係は築けないのに、 あいつはどこで勘違いしちまったんだろう」 ;; [>傍観する(本来の設定) [稔]「……いや、下の学年とのことに口をはさまないって決めたじゃないか。 俺が変に出ていって人間関係をこじらせても、あいつが苦しむだけだ」 [稔]「信じよう……。あいつが選んだ方法を」 ;;合流 [稔]「おっと、そろそろこっち戻ってきそうだな。 店の外で出待ちするとするか」 ;; 足音 ;; 背景:電気街 [稔]「よっ、みずき」 [みずき]「み、みのる!?」 [稔]「奇遇だな、こんなところで」 [みずき]「うん、びっくりした。どうしたの〜?」 [稔]「うちの炊飯ジャーがぶっ壊れてだな、姉さんの逆鱗に触れる前に 新品を買いに来たんだ」 [みずき]「ひめさんの逆鱗……すっごく嫌な響きだね」 [稔]「おお、同情してくれるか戦友(とも)よ」 [みずき]「うん、なんかね、よく分からないけど悪寒がするの。 頭のどこかが思い出しちゃダメって叫んでる……」 [稔]「みずき、もういい。それ以上は考えるな」 ……そう、姉さんの実験には俺だけでなく、子供の頃しょっちゅう うちに出入りしていた伊万里やみずきも含まれていたのだ。 あのおぞましい記憶を忘れられたのなら僥倖だ。俺も正直忘れたい。 [稔]「んで、お前は何買ったんだ?」 [みずき]「え、あたし? えっとね……いろいろ」 [稔]「へぇ、『いろいろ』か」 [稔]「『初心者からマニアまで納得の品ぞろえ 貴方の夜を素敵に演出  アダルトグッツのピンキーハウス』」 [みずき]「みのるっ――アウトオォォォォォ!!」 ;; パンチ シェイク [稔]「ほげえっ」 [みずき]「そっちの店じゃないってば! あたしの目当ては1Fの方!」 [稔]「なんだ、そうなのか。お前がそっちに興味あるなら相手してやろうかと思ったのに」 [みずき]「ふぇ……?」 [稔]「お……?」 [みずき]「相手って……」 [稔]「あ、ああすまん。冗談だ」 [みずき]「……バカっ! きな粉でむせて涙目になっちゃえ!」 [稔]「……俺、和菓子はあんまり食わないんだけど」 [みずき]「むー!」 [稔]「よしよし。んで、1Fってことは『百石電商』って店か。 なんかマニアックそうな響きだな」 [みずき]「うん、電子部品の店だよ」 [稔]「誰かに頼まれたのか?」 [みずき]「ま、ね……」 [稔]「なんだよ、俺には言えないようなことなのか?」 [みずき]「そういうわけじゃないけど……。ま、いっか。 んとね、しいちゃんに、変声器作ってほしいって頼まれたんだ」 [稔]「変声器?」 [みずき]「うん、ボイス・チェンジャーって言った方がいい? あの某推理漫画に出てくるようなやつ」 [稔]「お前、そんなの作れるの?」 [みずき]「へへっ、みずき様に不可能はないのだよ……っていっても まだ未完成なんだけどね。ほら、これ」 [稔]「意外に小さいんだな」 [みずき]「うん。こっちについてるのがマイクね。 ここで音を拾って、こっちのICで言語的情報と非言語的情報を分離してね、 非言語的情報の方を、あらかじめ登録しておいた対象の特徴で置き換えて 音声を再合成して、こっちのスピーカーで出力するの」 [稔]「……」 [みずき]「みのりん、聞いてる?」 [稔]「うわっ!」 [みずき]「へへー、びっくりした?」 [稔]「……今の声、伊万里か?」 [みずき]「うん、ちょっとテスト用のサンプルボイスに使わせてもらっちゃった。 まだちょっと高音部にノイズが乗っちゃうから、がさがさして聞こえるけど」 [みずき]「やっぱり入力部の性能が悪いと補正しきれないから、もう少し 性能のいいマイク使ってみようと思ってさー」 [稔]「お前、思いっきり電脳オタクだったんだな……」 [みずき]「……そういう反応が嫌だったから言いたくなかったんだい……」 [稔]「あ、ああすまん。いや、ちょっとびっくりしただけだ。 純粋にすげえと思うよ。そんなことができるなんて」 [みずき]「ホント?」 [稔]「ああ」 [みずき]「……うれしい」 [稔]「しかし、『しいちゃん』は変声器で何するつもりなんだ?」 ちなみに『しいちゃん』とは、みずきの話によく出てくるクラスメイトである。 [みずき]「んー、詳しくは聞いてないけど、放送部の余興に使うんだって言ってたよ」 [稔]「それなら良かったぜ……なんか、ちょっとした犯罪にすら使えそうな代物だもんな」 [みずき]「あはは、そうだよねー」 [稔]「あ、そうだ。お前、うちの炊飯ジャー直せないかな? もし直せるなら修理代ははずむぜ」 [みずき]「むー、最近の家電はマイコン化が進んでるから、難しいと思うなあ。 チップがいかれてたらどうしようもないよ。たとえ制御システムが完全に エミュレートできたとしても、基盤の集積度考えると、人手でチップ付け替えるのは 無理だと思う」 [稔]「……いや、正直すまなかった。軽い気持ちで言っただけなんだ……」 ……うう、内容の半分も理解できん。 [みずき]「それより新品買った方が安いんじゃないかなあ」 [稔]「そうみたいだな。あ、そうだ。時間あるならさ、一緒についてきてくれよ。 俺、どういうのがいいかよく分からないからさ」 [みずき]「おっけーおっけー、あたしに任せておきなさいっ!」 [みずき]「最近の炊飯器はすごいんだよ、真空圧力かまど炊きとかさっ! 南部鉄器とか、釜の素材にこだわった製品もいろいろあるし。 土日なら試食販売が出てると思うから、いろいろ食べ比べてみよー?」 [稔]「お、おうっ! それじゃ行こうぜ」 [みずき]「うんっ!」 その後俺は、みずきの勧めてくれた炊飯器の力で 無事姉さんのご機嫌を直すことに成功した。 それにしても、人にはいろんな一面があるもんだなあ。 いつも母親みたいなことばかり言ってくるから、なんとなく機械には うといイメージだったんだが、見事に覆された。 なんでもジャンク屋でパーツを漁っては、自作したパソコンをヤフオクで 売って小金を稼いでいるそうで、頼めば1台くらい譲ってもらえるかも しれねえな……。 いや、いかんいかん。 俺までみずきを利用してどうする。 ……みずきが周りに尽くしすぎるのは、有能すぎるせいなのかもしれないな。 多方面に知識やスキルを持っているからこそ、ついつい口出ししちまうんだろう。 そして、そのことに、みずき自身も自負心を覚えているんじゃなかろうか。 だとしたら、やっぱり―― たとえ傍から見て、みずきがパシリにしか見えなくても。 第三者が介入すべきではないんだろうか。 ……どうするべきなんだろう。 答えが出ないまま、日曜の夜は更けていった。