// 屋上 [伊万里]「ん、今日も誰もいなそうだねっ」 [稔]「まあこんだけ寒けりゃ、屋上なんてモノ好きしか来ねえだろ」 // 2/5昼選択時 [伊万里]「わかんないよ、またあいつらが来るかもしれないじゃん」 [稔]「まあな……」 [稔]「んで、話ってなんだ?」 [伊万里]「う、うん。あのね」 // ぐ〜 [伊万里]「……」 [稔]「……」 // 伊万里 赤面 [伊万里]「……そんな爆笑することないじゃないかあ」 [稔]「だってお前……タイミングぴったり過ぎ」 // 涙目 [伊万里]「うううう〜〜〜!」 [稔]「わーったわーった。飯食いながらにしよう」 [伊万里]「お、おなかなんて空いてないんだからねっ」 [稔]「なんでそこでツンデレ風なんだよ。 ほれ、作ってきてやったぞ。あり合わせだけどな」 // お弁当画像 [伊万里]「うわああ、おいしそうっ! 朝から作ったの?」 // 6日夜共通、ひめの弁当作ってイベント [稔]「いや、仕込みはほとんど夜。朝は鶏焼いて詰めただけ…… っておい、指でつまむな。勝手に食うな!」 [伊万里]「むぐむぐ……あえ、この鶏カレー味?」 [稔]「タンドリーチキンだ。フライパンで焼いてるから結構ジューシーだろ」 [伊万里]「うん、ふごくおいひいよう」 [稔]「……ちゃんと飲みこんでからしゃべれよ、汚ねえから……」 [伊万里]「だって、おいひくてのみこむのがもったいないんらもん。 こっちは……プチトマトときゅうりの串焼き? めずらしい〜」 [稔]「きゅうりじゃなくてズッキーニな。 オリーブオイルとクレイジーソルトを軽く振って焼いただけ」 [伊万里]「どれどれ……うん、こっちもおいひい! 口の中でとろけるよお」 [稔]「そこまで喜んでもらえるなら持ってきたかいがあるな」 [伊万里]「うん、毎日お弁当でもいいよっ!」 [稔]「待て、こういう時って普通女の方が弁当用意するもんじゃねえか……?」 [伊万里]「……だって、みのりんの方がボクより絶対料理うまいもん……」 // 大元の設定では伊万里の料理はSとなってましたが、うちの伊万里はCです。 // 伊万里は家事のまったくできない子です。 [稔]「まあな……」 [伊万里]「あ、ひどいっ! 嘘でもいいから否定してよっ!」 [稔]「だって俺、お前が料理してるとこ見たことねえし」 [伊万里]「能ある鷹は爪隠すっていうじゃん」 [稔]「じゃあ作ってこいよ、確かめてやるから」 [伊万里]「……遠慮しておきます……」 [稔]「……」 [伊万里]「そっ、そんな憐れむような目でボクを見るなあっ!」 涙目でわめいている寿司はおいといて、俺も食おうっと。 うん……チキンはこんなもんかな。ちょっとコリアンダーを 景気よく振りすぎたんだが、いい感じにおさまってる。 確かに、たまには弁当もいいかもなあ。 昼間並ばずに済むし、安上がりだし。 ほとんど残り物詰めるだけだから、手間もそんなかからんし。 だが……。 //風の音 [稔]「冷えるな」 [伊万里]「っくしっ」 [稔]「さっさと本題入ろうぜ。じゃねえと、何のためにこんな寒い思いしてるんだか 空しくなるだけだ」 [伊万里]「そだね……」 そう、俺たちも好き好んで寒空の下わびしく弁当をつついているわけではない。 昨日の夜伊万里から、相談したいことがあるとメールが来たのだ。 人払いしてまで相談したいこと――といえば。 [伊万里]「みずきちのことなんだけどさあ」 [稔]「やっぱりそれか」 [伊万里]「うん。このまま見てみないフリしてて、ホントにいいのかなあ、って思って」 [稔]「そうさなあ」 [伊万里]「ボクね、――あまりこういうことを言うのは好きじゃないんだけど、 あの人たちとは、仲良くしようとしても無駄だと思うんだ」 [稔]「珍しいな、お前がそこまで悲観的だなんて。毒男がうつったか?」 [伊万里]「ん……ボクとしても、不本意なんだけどさ」 [伊万里]「一昨日から、ずっと考えてた。ううん、考えようとしたんだ。 どうすれば、あの人たちは分かってくれるのかなあって」 [伊万里]「あの人たち、みずきちのことも、事故のことも誤解してるから、 せめて事故のことだけでも、本当のことを分かってほしいんだ。 そしたら、あんな風に陰口をたたくこともなくなるのかなあって」 [稔]「……ほう」 [伊万里]「でも、できなかった」 [伊万里]「あの人たちのことを思い出すだけで―― あの時のニヤニヤ顔を思い出すだけで、胸が痛くて…… 頭が真っ白になって、結局何も考えられなかった」 [伊万里]「こんなに誰かを憎いって思ったの、初めてかもしんない」 [稔]「……」 伊万里の口から出た『憎い』という単語にドキッとした。 憎しみ。 おおよそ、こののー天気の塊が持ちうる感情ではない。 [伊万里]「胸の奥がどろどろして、苦しいよ。みのりん。 どうしてあいつらは、あんな悪意を誰かに向けて 平気でいられるんだろうね」 [伊万里]「ボクは、誰かにこんな感情を抱き続けるなんて 苦しくてたまらないのに……」 ……事故のことをネタにされて、こいつも相当キテるみたいだな。 あまり、この話を長引かせない方がいいのかもしれない―― [伊万里]「嫌いになるより、好きでいる方がずっとずっと幸せなのに。 あの人たちはそうじゃないのかな。 ……それとも、ボクがおかしいのかなあ?」 // 選択にしてもいいかも [稔]「――お前の感覚は正常だと思うぜ。 少なくとも俺は、何の理由もなく人を嫌う人間の感覚はよくわからん」 // ※実は主犯格の男がみずきが好きで、横恋慕しているという設定なので理由はあるのです [伊万里]「だよね? あいつらはやっぱりおかしいよ。 どんなにみずきちが頑張っても、あの人たち相手じゃ……」 // 回想 [みずき]「全部、やったよ」 [みずき]「全部、やった。あたしに思いつくことはなんでもやった。 でも、あの人たちがあたしを見る目は変わらなかった」 [稔]「そうだな……」 [稔]「実は俺も、俺たちは間違ってたんじゃないかって思いはじめてた」 [稔]「でも――」 [稔]「じゃあ奴らと付き合いを絶ったとして、あと2年間 みずきはどうすればいいんだろうな。 ……結局、最初の問題にぶちあたっちまう」 [伊万里]「あんなやつらと付き合わなくても、他に性格いい子がいくらでもいるよ!」 //回想 [稔]「いや……ちらっと聞いた限りでは、どうやら他の奴らはみずきを避けてるらしいんだ。 唯一相手にしてくれるのがあいつらってことらしい」 [伊万里]「なに、それ……」 [稔]「まあ、あいつらがクラスを仕切ってて、無視するように仕向けてるのかもしれないけどな」 [伊万里]「そんなの……ひどい……許せないっ!」 [稔]「まったくだ……って」 [伊万里]「なんで、みずきちを……ひっく、そんな、目の敵に……ぐずっ」 [稔]「おい、なんでお前が泣くんだよ」 [伊万里]「だって……みずきちが、みずきちがかわいそうすぎるよう……ひっく」 [稔]「だからって……俺が泣かしたみたいじゃねえか」 こんなところを誰かに見られたら…… そう、特に知ってるやつらにでも見られたら…… [ひめ]「みーのーるーくんっ? こんなところで女の子泣かせて、何してるのかなあ?」 [稔]「ぎゃああああああっ」 [早紀]「ひめっちー、お取り込み中に邪魔したら可哀想だよー」 [ひめ]「だって、なんかおもしろそうな匂いがしたんだもんっ」 [伊万里]「ひめ姉さま……蓬山先輩?」 [早紀]「こんにちは、弟クン、伊万里ちゃん」 [稔]「あ、どもっす……って三年は休みなんじゃ?」 [ひめ]「今日はねえ、早紀と学校でピクニックなのー」 [早紀]「三年の登校は自由だからねー。 けっこう教室を自習室代わりに使ってる子も多いんだなあ」 [稔]「それで昨日から 弁当作れってうるさかったのか……」 [伊万里]「でも、学校なんか来て何するんですか?」 [ひめ]「ちっちっち、分かってないなあいっちゃん。 授業のない学校は天国なんだよー? 漫研の漫画は読み放題だし、映研のDVDは見放題だし」 [稔]「姉さん……確か元化学部だったよねえ?」 [ひめ]「だってみんなお菓子付きで歓迎してくれるもん」 [伊万里]「さすがひめ姉さま……」 [稔]「だからって他の部の部室にほいほい立ち入っていいもんじゃないだろ、 同じ学校に通う身内の立場も少しは考えてくれ……」 [稔]「はっ、先輩もまさか、漫研映研に入り浸りとか?」 [早紀]「私は三送会の打ち合わせで、ちょっとね」 [稔]「へ? 三送会って『三年生を送る会』ですよね? 先輩たちは観客側じゃないんですか?」 [早紀]「例年、卒業生が最後に合唱することになってるのよ。 在校生の出し物に感謝を込めて、ってことでね」 [ひめ]「早紀はピアノうまいから伴奏担当なんだよん」 [早紀]「合唱の練習自体は、みんなの受験が終わってから始めるんだけど 今日は先生と曲の候補を選んでたの」 [稔]「うちの馬鹿姉とは大違いだ……」 [ひめ]「で、こんなところでいっちゃん泣かせて、何してたのかなあ稔くん?」 [稔]「ぎくっ」 [伊万里]「あ、ちがうんですひめ姉さま、ちょっとコンタクトにゴミがっ」 [ひめ]「いっちゃん裸眼じゃん」 [伊万里]「ぎくっ」 [稔]「お前はどうしてそうすぐバレる嘘をつくんだ」 [伊万里]「じょ、条件反射ってやつだよ、ほらツーといえばカーってやつ」 [稔]「お前は誰にツーって言われてもカーって答えるのかよ」 [伊万里]「えっ、ツーカーってそういう意味じゃないの!?」 [稔]「もういい」 [ひめ]「二人とも、そうやって誤魔化そうとするってことは、 何かいかがわしいことしてたってことなのかなあ?」 [稔]「いえっ、めっそーもございませんっ!」 [ひめ]「稔くんはあ、お姉ちゃんに隠しごとするのかなあ?」 [稔]「うっ……」 この目をした時の姉さんは、やばい……。 長年刷り込まれてきた恐怖心が、俺の中で警鐘を鳴らしている。 だけど、こんな話を広めるわけにはいかないし。 [早紀]「話しづらいことだったら、細かいことは話さなくていいの。 適当にぼかして、要点だけ教えて?」 [稔]「先輩」 [早紀]「ひめっちは弟クンが心配なのよね。 二人が、なんだかすごく深刻そうだったから」 [ひめ]「うん。ひめたちは頼りにならないのかなあ? ひめ、これでもお姉ちゃんなのに」 [稔]「姉さん……」 いかん、不意打ちだ。 ついうるっときてしまった。 [伊万里]「どうする? みのりん」 [稔]「そうだな……じゃたとえば――。 姉さんたちは、もし俺がクラス中からひどいいじめを受けてて、 自力じゃどうしようもない状態に陥ってたら、どうする?」 [ひめ]「そんなの、学校辞めちゃえばいいじゃない」 [稔]「姉さんを信じた俺が馬鹿だった」 [ひめ]「えええ? だって、なんで学校行く必要があるの? 大学入っちゃえば高校までの学歴なんてどーでもいいじゃない」 [稔]「そこはそれ、学校ってのは勉強だけじゃなく、社会性を身につける場でもあって――」 // ↓要書き直し [ひめ]「えー、だってそんなゆがんだ環境でがんばってもしょうがなくない?」 [早紀]「私もそう思うな。どうせ大学以降は自分でコミュニティを選べるようになるんだし、 気の合わない人と無理に付き合うことないんじゃない?」 [稔]「先輩まで」 [伊万里]「でも、高校って楽しいこともいっぱいあるのに、全部諦めなきゃならないなんて 悔しいです……」 [先輩]「だったら他に転入するって手もあるわね」 [伊万里]「そんなあ」 [先輩]「まあ、一過性のものかもしれないから耐え抜くのもありだと思うけど、 逃げるっていうのも大切な選択肢のひとつだってこと、忘れない方がいいかな」 [稔]「……はい」 [ひめ]「稔くん、誰かにいじめられてるの? 高校なんて行かなくていいんだよ? お姉ちゃんと一緒におうちにいよう?」 [稔]「ああ、俺のことじゃないよ。たとえ話」 [先輩]「うちの高校内にいじめがあるってこと、かな? ――元生徒会長としては、見過ごせないなあ。 詳細、聞かせてもらえないかしら」 そうか、姉さんはともかく、先輩に頼るというのはいいかもしれない。 先輩なら、裏からうまく根回ししてくれそうな気がする。 出口の見えない迷路に光明が差した。 [伊万里]「みのりんっ」 [稔]「ああ」 [稔]「ありがとうございます。 俺の口からどこまで話していいのか分からないので、 また改めて相談させてもらってもいいですか?」 [早紀]「もちろんよ。待ってるわ」 [ひめ]「稔くん、お姉ちゃんも頼ってよー」 [稔]「あ、うん。そのうちね……」 ――こうして。 思わぬところで強力な助っ人を得て、事態は解決に向かうかのように見えた。 だけど、ほんの少し、遅すぎた。 歯車はすでに、思っていた以上にゆがみまくっていたという事実を 俺たちは後から知ることになる――