// 早紀ルート 2/12 // 背景:早紀は子供の頃父親に性的虐待を受け続け、異常な性行為(SM)でしか // 愛されているという実感を得ることができない。(なお、その現場を目撃した // 母親が父親を刺殺し、現在服役中という設定) // // 早紀はその性向をずっと隠していたが、親友の弟(稔)がひめにかいがいしく // 仕える様をみて、この子なら自分の思う通りに動いてくれるかもしれないと // 期待するようになる。 // // 3連休、先輩に呼び出されて家に行くと、そういう性癖を打ち明けられ // 手ひどく抱いてほしいと依頼される。 // 稔は早紀を心配して断るが、早紀は落胆し、ハンストに入ってしまう。 // 早紀室内。窓は雨戸が閉じていて暗い。 [稔]「先輩、卵おじや作りました。食べてください」 [早紀]「……」 [稔]「キッチン、勝手に使いましたよ。穴あき杓子の場所が分からなくて ちょっと荒しちゃいましたけど……」 [早紀]「……要らない」 [稔]「あれ、卵は嫌いでした?」 [早紀]「……好き」 [稔]「ですよねー。じゃはい、どうぞ」 [早紀]「要らない」 [稔]「どうしました? お嬢様。 ああ、あれですね、定番の『はい、あーん』をやってほしいんでしょうっ!? しょうがないなあ、行きますよー……ふぅ、ふぅ、はい、あーん?」 [早紀]「……」 [稔]「……」 [早紀]「……」 [稔]「……はあ」 [稔]「昨日の朝から、もうほぼ丸一日ですよ。 子供みたいに駄々をこねないでください」 [早紀]「……」 [稔]「せめて水ぐらい飲まないと、本当に命にかかわりますよ?」 ――先輩との我慢比べは、二日目に入っていた。 先輩は相変わらず、ベッドに体育座りでうずくまり、身じろぎすらせずに 硬い表情のまま虚空をにらみつけていた。 昨晩、少しは寝たんだろうか。 俺が昨晩最後に見た時と同じ姿勢をしている。 俺が寝ている間に、こっそり起きて水を飲んでいてくれたりしないだろうか。 ……いや、先輩の性格を考えれば、そんなことはあり得ない。 先輩は、自分にとても厳しい人だ。 いやむしろ、積極的に自分を傷つけたがる人だ。 先輩のそんな衝動の裏側に、こんな性癖が隠されていたなんて 今までまったく気付かなかったが……。 [稔]「そうやって、自分の体を人質に取るのは、卑怯です」 [稔]「見損ないました。先輩」 [早紀]「じゃあ、帰ればいいじゃない。私のことなんて放っておいてよ」 [稔]「放っておけるはずないでしょう!」 [早紀]「どうして? 弟くんは私のことキライなんでしょ?」 [稔]「いいえ」 [早紀]「見損なったって言ったじゃない。軽蔑してるんでしょ? 倒錯的な嗜好のあさましい変態女って思ってるんでしょ?」 [稔]「そんなことは言ってません」 [早紀]「じゃあ何? 弟くんにとって、私ってどんな女なのかなあ?」 [稔]「――あなたは……」 //選択 // 1) 姉さんの大切な友人だ // 2) 憧れの女性だ // 3) よくわからないけど放っておけない // 1) 姉さんの大切な友人だ [稔]「姉さんの大切な友人だ」 [早紀]「そう、ひめっちのためって訳ね。 それなら、私のお願いを聞いてくれてもいいでしょう?」 [早紀]「弟くんが私を何をしても、弟くんに実害はない。違う?」 [早紀]「それとも、私ってそんなに魅力がないのかしら。 私のこと、抱きたいって思わない?」 [稔]「そんなことありません。あなたは――俺にとって、高嶺の花でした」 [稔]「これまでに、あなたを抱く妄想をしたことがないと言えば嘘になります」 [早紀]「それならちょうどいいじゃない。いくらでも抱かせてあげるわよ。 伊万里ちゃんやみずきちゃんにできないようなことまで、なんでもさせてあげる――」 [稔]「なんで、伊万里やみずきの名前が出てくるんですか……」 [早紀]「あら違うの? いつも一緒にいるんだもの、てっきりそうだと思ってたのに。 それとも、ひめっちのことが好きなのかなあ? 禁断の関係ってやつ?」 [稔]「変な詮索はやめてください。失礼だ」 [早紀]「私は、稔くんが誰を好きでもかまわないの。 稔くんの恋愛に口をはさむつもりはないわ」 [早紀]「私はただ、自分の体の欲求を満たしたいだけ」 [稔]「俺は女じゃないんで、よく分かりませんが――。 先輩は、好きでもない男に抱かれて、傷つかないんですか?」 [早紀]「……好きじゃないからこそ、いいのよ」 [稔]「はい?」 [早紀]「弟くんになら、たとえ軽蔑されても……」 [早紀]「別に、私の世界は壊れない」 ――そういう、ことか……。 俺はハナから『先輩の世界』に存在しないから。 俺が先輩をどう思おうとも、何をしようとも。 彼女には届かないってことか。 [稔]「……本当にそうでしょうか? たとえば、俺が先輩との関係を言いふらしたら? 言葉だけじゃ弱いか、なら写真を撮ってばら撒いてもいい。 俺にだって、『先輩の世界』に影響することはできるんですよ?」 [早紀]「弟くんはそんなことしないわ」 [稔]「へえ、ずいぶん信用されてるんですね、俺は。 俺がこんな扱いを受けて、腹を立てないとでも思ったんですか?」 [早紀]「弟くんは、たとえ一時的に怒っても……いざやろうとしたら、絶対に 踏みとどまって考える。取り返しのつかないことは絶対にしない」 [稔]「……」 [早紀]「でしょ?」 [稔]「……ヘタレってことですか?」 [早紀]「褒めてるのよ。だから、弟くんを選んだの」 なるほど。つまり―― 自分にあまりに近い人間には、本当の自分をさらけ出せない。 でも全然知らない人間に体を任せるわけにはいかない。 適度に遠くて、かつ口が固く信頼できる人間。 後くされのない、面倒のない相手。 そのちょうどいいポジションにいたのが、『親友の弟』である俺なんだろう。 ……俺の存在価値はその程度のものか。 やわらかなマットに、両膝がずぶりとめり込む感触を感じた。 我に返ると、先輩の首に両手をかけている自分がいた。 いつの間にか、俺はベッドに上がり込んで先輩の上に馬乗りになり、 彼女の上半身をマットレスに押し倒していた。 先輩のは一瞬だけ、驚いたように目を見開き―― 目を細めて、嬉しそうに笑った。 [早紀]「ほら、ね」 そう、俺にはできなかった。 少し力を込めて、少しだけ彼女を痛めつけて、 彼女に俺の怒りを知らしめてやれればいい。 そう思っても、両手に力は入らなかった。 俺の腕はただだらんと垂れさがり、先輩の首に添えられているだけだった。 [稔]「あなたは勝手です。俺の気持ちなんてちっとも考えてくれない」 [早紀]「強制はしてないわ。嫌なら私を見捨てればいいだけじゃない」 [稔]「それができないってこと、分かって言ってるんでしょう?」 [早紀]「……そう、ね。そうかもしれない」 [早紀]「私ね、弟くんのこと、とっても信頼しているのよ。 こんなによく気がつく子、男の子には珍しいもの。 ひめっちがうらやましかった。ずっとこんな弟が欲しかったの」 [早紀]「ああ、でもあなたが実の弟だったら、逆にもっと苦しかったかしら。 ……ひめっちもずいぶん悩んだんでしょうね……」 [稔]「だから、俺と姉さんはそんな関係じゃないですってば」 [早紀]「ふふっ」 ……だからなんですかその含み笑いは。 ああ、もうなんだか毒を抜かれてしまった。 さっきまで胸に渦巻いていた黒い感情も雲散霧消だ。 どうでもいい。――どうにでも、なれだ。 [稔]「俺が今ここであなたを抱けば、それであなたは救われるんですね?」 [早紀]「ただのエッチじゃいや」 [稔]「……分かりました、つまり――その、SMプレイをすれば、満足するんですね?」 [早紀]「……」 そこで無言にならないでください。 俺だって恥ずかしいわ。 ていうか、俺。まだ童貞なんですけどー……。 いきなり攻め役ですか。ハードルたっけえなおい。 まあもうこうなったら、ほとばしる煩悩でなんとかするしかあるまいて……。 [稔]「わかりました……先輩、約束してください。 俺は精一杯お相手します。それで満足したら、ご飯を食べてくれますね?」 [早紀]「ですます調もやめて、稔くん」 [稔]「わかった。それじゃ始めるぞ。――早紀」 両手の下で、先輩の喉が小さくごくっと鳴るのがわかった。