// Scene1: 悪夢(これからの展開を象徴するような) // // 背景:黒いもやもやした感じ(動画) // SE:女のすすり泣くようなホラー系のもの // [稔]「待って……思いとどまってくれよ……」 // SE:「もう、遅いわ」「十分よ」「ふふふふっ、ははっ」 // (サンホラ系。複数の声を重ね合わせる) [稔]「なんだって、こんな突然……」 // SE:「突然?」「突然ですって」「やっぱりね」 [稔]「どうして、こんなことになっちまったんだ?」 // SE:「気付いてなかったの?」「気付いてほしかった」「信じてたのに」 [稔]「俺がいったい何をしたっていうんだ、なあ!?」 // SE: 「何もしてないわ」「何もしてくれなかった」「ずっと待ってたのに」 [稔]「こんなことして、それでお前は満足なのか?」 // SE: 「さあ、どうかしら」「私にもわからない」「もう、どうでもいいの」 // SE:「無理よ」「もういいの」「あなたにはきっと分からない」 [ひめ]「稔くん? 大丈夫? 稔くんってば」 [稔]「だからその、物騒な獲物を振りかざすのは――!」 // SE:「さよなら」 // エフェクト:ナイフを振りおろすような軌道、ホワイトアウト [稔]「うわあああああああああああああああああっ」 // スチル:稔ベッド。傍らで覗き込んでいたひめにしがみついている図 [稔]「あ……?」 [ひめ]「やだ……稔くんてば」 [稔]「ここは……」 [ひめ]「朝から元気なんだから、もー」 [稔]「……夢、か……」 [ひめ]「いいの、続けて?」 [稔]「へ……何を?」 [ひめ]「もう稔くんったら、女の子にそんなコト言わせるつもり?」 [稔]「あ、うわっ! ごめん、寝ぼけてて」 [ひめ]「照れなくてもいいんだよ、稔くん」 [稔]「いや照れてるとかそういう問題じゃなく!」 [ひめ]「なによ、稔くんから抱きついてきたんじゃない。 男なら最後まで責任とってくれるよねっ」 [稔]「だが断る!!」 [ひめ]「ええええっ!?」 [稔]「もう、いい加減からかうのはやめてくれよ。 ガキの頃からいつもいつもそーやって……」 [稔]「いい? 俺と姉さんは――」 // スチル終了。背景:天井 [稔]「正真正銘、血のつながった姉弟同士なんだからね!」 // 場転。道。登校中 // SE: 走る足音 [稔]「やべ、もうこんな時間かよ。 くっそあの馬鹿姉、ぎりぎりまでしがみつきやがって……」 [稔]「んでもって腹減った飯を出せだの、デザートに甘いココアつけろだの ココアには焼いたマシュマロ2粒入れろだの 平日の朝っぱらからわがまま放題言いやがってえええ」 [稔]「俺は家政婦じゃねえ!!」 [稔]「いい加減ガツンと言ってやった方がいいのかな……。 いつの間にか飯の準備も掃除も洗濯も、すっかり俺の分担になっちまってるし」 [稔]「そりゃ中学の頃は全部姉さんがやってくれてたけどさ。 だからっていきなり100%シフトはちょっと酷過ぎるよな」」 [稔]「よし、帰ったらビシッと言ってやるぞ。言ってやる……」 [稔]「せめて自分のパンツぐらい自分でたたみやがれ!!」 [みずき]「み、みのる……?」 [稔]「うわあああああっ!!」 [みずき]「朝からどしたの? 道のど真ん中でパンツパンツって……」 [稔]「いや連呼はしてないからっ」 [みずき]「ポイントそこ!?」 [稔]「あいや、あは、ははは、ええとどうしたんだ? この時間にこんなところにいたら遅刻だぞ?」 [みずき]「あたしはいつもこの時間だよ? 自転車だし。 みのるこそ、ちんたら歩いてていいの?」 [稔]「ぐっ、痛いところを……」 [みずき]「急ぐんなら乗る? 後ろ。 荷台ないから立ち乗りだけど」 [稔]「お、神! 助かるぜ」 // SE: なんか自転車に乗ったっぽいみしっという音 [みずき]「んっ……お、重い……」 [稔]「すまん。俺がこごうか? 代わろうぜ」 [みずき]「いいのっ、あたしがこぐのっ!」 [稔]「いやでもなんかぐらんぐらんいってるし!」 [みずき]「あたしに……ま・か・せ・て・おきなさぁいっ!」 [稔]「うわあっ!!」 //背景:流れる風景(自転車) [稔]「お、すげえ……マトモに走ってる」 [みずき]「み、みのる……手、手が……」 [稔]「ん?」 [みずき]「手、もちょい下に……」 [稔]「うわっ、すまん! つい必死にしがみついちまって」 [みずき]「あ、うん、いいの! 不可抗力ってことは分かってるから!」 [稔]「そ、そか。ご協力いたみいるぜ」 [みずき]「いえいえこれくらい朝飯前でさあ」 [稔]「飯食ってねえのか?」 [みずき]「今朝は昨日の残りのけんちん汁に塩鮭、あとひじきの煮ものだったよ」 [稔]「お、純和。いいねえ。俺どうも和は作れなくってさ。 てきとーに食パンと目玉焼きになっちまうわ」 [みずき]「あれ、まだみのるが作ってるんだ? ひめさんは?」 [稔]「ダメダメ。炊事洗濯、掃除に買い出し何一つしやしねえよ」 [みずき]「受験生だもんねえ」 [稔]「姉貴はAO入試組だぜ」 [みずき]「あ、そなんだ」 [稔]「ああ。まあ受験期入る前から家事してなかったし。 てか、俺らが高校入ってからずっとだな」 [みずき]「早くお父さんの海外赴任、終わるといいね……」 [稔]「その前に俺が大学入って家出たりしてな」 [みずき]「そしたらひめさんもついてきたりして」 [稔]「その冗談は笑えねえよ……。ったく、あんなんで嫁の貰い手あるんかね」 [みずき]「あれ、ひめさんもてもてでしょ? あんなにかわいいんだもん。 うちの学年でもかわいいかわいいって騒いでる子、よく見るよ」 [稔]「まあ、そりゃそなんだが……嫁はマスコットじゃねえからなあ」 [みずき]「みのるはどんなお嫁さんがいいの?」 [稔]「ほへ?」 [みずき]「あ、た、例えばの話っ」 [稔]「んー、そうだなあ」 // 選択肢 1. 外見重視 2. 家事重視 3. 性格重視 4. 収入重視 //1.外見重視 [稔]「やっぱ見た目でしょう! 美人でグラマラスで、ついでに床上手だったら最高だな!」 [みずき]「とこじょうず?」 [稔]「あいやこっちの話っ!」 [みずき]「……ふーん、そんなのが稔のタイプなんだあ。 たとえば、蓬山先輩みたいな?」 [稔]「あ、あはは、そ、そうだなそんな感じそんな感じっ」 [みずき]「そっかあ…… // 2. 家事重視 [稔]「やっぱ家庭的な子がいいな。しっかり家を守ってくれて、いい母親になってくれそうなタイプ」 [みずき]「そうなんだ」 [稔]「ああ。多少は仕事しててもいいけどさ。最低限、子供といる時間をちゃんと大事にしてくれる人がいいよ」 [みずき]「やっぱり、寂しい?」 [稔]「あ?」 [みずき]「お母さん、ついて行っちゃって」 [稔]「……ん、まあな。まあ、親父があんなだからしょうがないけどさ。 俺はもう慣れっこになっちまったけど、やっぱ子供に同じ思いをさせたくはないな」 [みずき]「そっか……うん、そうだよね」 [稔]「ああ」 [みずき]「あたし、がんばるね」 [稔]「へ?」 // 3. 性格重視 [稔]「やっぱ性格だろ。一緒にいておもしろいやつがいいよ。 会話が続かないとしんどいじゃん」 [みずき]「あたしは候補に入るー?」 [稔]「お前? うん、悪くないぜ」 [みずき]「……ホント?」 [稔]「まあ大半がゲームネタになりそうだけどな」 [みずき]「あはは確かにっ! そうだ。またゲーセン行こうよ。 新しいシューティング入ったんだ」 [稔]「シューティングか……弾幕系?」 [みずき]「うんっ」 [稔]「俺弾幕苦手なんだよな……まあいいや、付き合ってやるぜ」 [みずき]「やったー!」 // 4. 収入重視 [稔]「今の時代は収入だろう……。ダブルインカムじゃないとやっていけないぜ」 [みずき]「ず、ずいぶん現実的だね……」 [稔]「ああ。むしろ高給取りの女に飼われたい。ヒモになりたい」 [みずき]「えー、そんなあ。夢がないなあ」 [稔]「いいんだ。ほらだって俺、家事できるし? 男の家事手伝いがいたっていいじゃないか! 大体なんで男は無職で女は専業主婦なんだ? それこそ男女差別じゃねえか!」 [稔]「俺は堂々と専業主夫を名乗りたい!」 [みずき]「……が、がんばってね……」 // 学校到着。校門 [稔]「おお、さすがチャリははええな」 [みずき]「5分前か、あんまりのんびりもしてらんないね」 //背景:自転車置き場 [稔]「いや十分十分、遅刻確定から奇跡の逆転劇だ。サンキュな」 [みずき]「ん、お代は対戦3回分でいいよ」 [稔]「ジャンルは?」 [みずき]「なんでもー。みのるが勝てそうだって思うやつでいいよ」 //背景:学校正面 [稔]「……じゃクイズで……」 [みずき]「えー、そこは男らしく格ゲーとかレースとかにしようよ」 [稔]「やだよ、ぜってえ勝てねえし」 [みずき]「やってみなきゃ分かんないじゃない」 [稔]「いや分かる。これまでの対戦成績が全てを物語ってる!」 //背景:昇降口 [みずき]「それじゃ、あたし行くね」 [稔]「ああ。またな」 //SE: 足音(遠ざかる) [稔]「1年は4階だからしんどいよなあ……大丈夫かな、あいつ」 [稔]「なんて、感傷にひたる暇はねえな。俺も走らねえとっ!」 //SE:足音 //暗転 //背景:稔教室 // SE :ガラッ(扉開く [伊万里]「みのりんっ!」 [毒男]「いよーう、珍しく遅いじゃないか」 // SE : キーンコーンカーンコーン [稔]「ま、間に合った……」 [伊万里]「寝坊?」 [稔]「ああ……久々にやらかしたぜ」 [毒男]「悪い夢でも見たか?」 [稔]「ん……」 // SE : 女の笑い声 [稔]「なんか……誰かに殺されそうになる夢だった気がする」 [伊万里]「誰に?」 [稔]「んー……思いだせねえなあ」 [毒男]「女じゃねえの? お前のことだし」 [稔]「おい待て」 [伊万里]「ん? 『お前のことだし』って?」 [毒男]「『ひどい、稔くん……あたしがこんなに想ってるのに、 どうして気付いてくれないのっ!? こうなったら、稔くんを 殺してあたしも死ぬっ!』とか」 [伊万里]「ええええっ! み、みのりんっにそんなヒトが!?」 [稔]「待て待て待て待て! そんなリア充めいた心当たりはまったくねえぞ」 [毒男]「どうだかねえ……」 [稔]「てかむしろどっからそんな説が出てきたんだよ……」 [毒男]「まあ半分は俺の希望的妄想だけどな」 [稔]「全部だ全部」 [伊万里]「みのりんに……そんな……」 [稔]「ほれみろ、ここに約一名信じ込んじまったやつがいるじゃねえか。 風評被害で訴えてやる」 [稔]「ほれ伊万里、おめえも毒男に毒されてんじゃねえよ。 俺がんなモテるはずねえだろが」 [伊万里]「んー……確かにみのりんは玄人向けかもねっ」 [稔]「……なんじゃそりゃ」 // SE:ガラッ [九暮]「おい朝礼の時間だ屑ども、着席しろ」 [伊万里]「うわググレきちゃった、んじゃねっ」 [毒男]「おう」 [稔]「なあ毒男、マニア向けって喜べばいい? 悲しめばいい?」 [毒男]「知るか」 [稔]「……」 // 暗転。昼休みに。 // 再び教室。4時間目終了 // SE: チャイム [男子学生]「お、飯の時間だ」 [男子学生]「うーし、学食行くベー」 [男子学生]「しかし、突然休講なんてひまわりちゃんどうしたんだろう」 [男子学生]「どうせいつものあれだよ、あ、れ」 [毒男]「稔、俺らも行こうぜ」 [稔]「ああ」 //キンコンカンコーン [校内放送]「校内放送だ。2年B組、藤宮 稔 同志。2年B組、藤宮 稔 同志。至急職員室まで来てくれ。繰り返す。2年B組、藤宮 稔 同志……」 [稔]「う、げ……」 [女学生]「あれ、今の声……」 [女学生]「ひまわり先生……だよねえ?」 [男子学生]「うはは、さっすがひまわりちゃん。授業放棄で堂々と校内放送か」 [男子学生]「稔、お前も災難だな。同情するわ」 [稔]「とか言いながら顔はしっかり笑ってるじゃねえかよっ」 [男子学生]「いやいや、あの先生をお守れるのはお前ぐらいだぜ」 [男子学生]「よっ藤宮っ、頼りにしてるぜっ」 [稔]「てめえら……他人ごとだと思ってえええ!!」 [毒男]「んで、行くのか? 稔」 [稔]「んー……まあな。いちおあんなのでも先生だし、すっぽかすわけにもいかんだろ……」 [毒男]「んじゃ俺は飯行くぜ」 [稔]「ああ。あ、焼きそばパン一つ買っといてくれ」 [毒男]「ああ、残ってたらな」 [稔]「助かる。んじゃな」 // SE: 足音 // 場転。職員室。 // SE: 扉開ける。ガラガラッ [稔]「先生、何校内放送を私用で使ってるんですか……」 // 日向立ち絵表示 [日向]「お、おお。よく来てくれた同志よ! 大変なことになったんだ」 [稔]「どうしました? 顔が土気色ですよ」 [日向]「実は、『清浄のタリスマン』がなくなってしまったんだ」 [稔]「タリスマン……? ああ、先生がよく首からぶら下げてるあのガラス玉ですか?」 [日向]「ガラス玉なんかじゃない! あれがないと、私は『指令』を聞くことができないんだ! それだけじゃない。タリスマンは日々『暗黒の波動』から私を守ってくれているのだ」 [日向]「今はこの『慈愛の聖衣』がかろうじてしのいでくれているが、突破されるのは時間の問題だ」 [稔]「ちなみに『慈愛の聖衣』って単なる白衣のことなんですけどね」 [日向]「頼む、同志よ! 私はこの『伝令の円卓』から離れることができない。私の代わりに、『清浄のタリスマン』を探し出してくれ!! 君だけが頼りなんだ!」 [稔]「ちなみに『伝令の円卓』って普通の職員室の机だから四角いんですけどね」 [日向]「同志、さっきから誰と会話しているんだ!? 君にも『指令』が聞こえるのか!?」 [稔]「あー、えーっと。と、とにかく、ペンダントを探し出せばいいんですね?」 [日向]「ペンダントじゃない! 『清浄のタリスマン』だっ!!」 [稔]「わかりました……。んで、どの辺で落としたんですか?」 [日向]「それが……まったく記憶にないんだ。というより、私が落とすはずがない。知らず知らずのうちに、『奴ら』に奪われたとしか思えないんだ」 [稔]「え、でも、ずっと首にぶら下げてたわけですよね。先生に気付かれないように抜き取るって不可能じゃないですか?」 [日向]「だから私も不思議なのだよ。手先の器用な盗賊に鎖を断ち切られたか、何かの幻影にでもかけられたか……」 [日向]「ともあれ、私がまんまとしてやられるぐらいだ。相当の手練れに違いない。君も重々気をつけろよ」 [稔]「はぁ……」 [???]「先生」 // 先輩表示 [稔]「早紀先輩っ」 [日向]「お? おお、蓬山同志ではないかっ! どうした?」 [早紀]「これ、先生のですよね」 // タリスマン表示 [日向]「おおおおおっ、こ、これはまさしく『清浄のタリスマン』っ!!」 [日向]「蓬山同志、いったいどこで、これを……?」 [早紀]「中庭を歩いていたら、何かとても邪悪そうな顔をしたものが、これを握りしめていたんです」 [稔]「は……?」 [早紀]「私、とても怖かった……」 [早紀]「でも、以前先生に教えていただいた通りの印を結んだところ、奇声をあげて逃げ出していきましたわ」 [稔]「ちょ、ちょっと、先輩……?」 [日向]「そうか、そんなことが……さぞかし怖かっただろう。いかな私の弟子とはいえ、一介の女子高生にすぎない君がそんな危険な目に遭うなんて……」 [日向]「私の不徳のせいだな、本当にすまない。教師、失格だ……」 [早紀]「いいえ、先生の教えのおかげで、身を守ることができたんです。ありがとうございます」 [日向]「蓬山同志、君は優しいな……」 [日向]「ともあれ助かった。心から礼を言う。今日は疲れただろう、ゆっくり休んでくれ」 [早紀]「はい、では失礼します。藤宮君、行きましょう」 [稔]「え、あ、はい……」 //足音2人分 //場転:職員室前廊下 [稔]「助かりました、先輩……」 [稔]「で、本当はどこにあったんですか?」 [早紀]「今さっき生徒会室に遊びに行ったらね、拾得物入れにはいってたのよ。後輩の子たちはもうお弁当広げて忙しそうだったから、代わりにね」 [稔]「さすがは前生徒会長」 [早紀]「え? 落し物届けただけよ?」 [稔]「いや、先輩もお昼まだなんでしょう? なのに、後輩の代わりって」 [早紀]「ふふ、日向先生がこのペンダントを大事にしているの、知ってたからね」 [稔]「そう、それによくあの先生の妄想についていけますね。さっきのだってアドリブでしょう?」 [早紀]「だって、2年前は私が弟くんのポジションだったのよ? 弟くんが入学してからはお株を奪われちゃったけどね」 [稔]「ほへ、そうだったんですか?」 [早紀]「ええ。まだ代わりが見つからないところをみると、よっぽど弟くんのこと気に入ってるのね、日向先生」 [稔]「うげ……やめてください……」 [早紀]「あはは、でも日向先生って、慣れると面白いのよ。すごくとんでもなこと言っているようで、実は物理の法則にちゃんと則ってたり、とか」 [稔]「俺はひまわり語録を理解できるほど物理の成績よくないですよ……ったく、なんで俺なんかが先生に目つけられたんでしょうねえ」 [早紀]「んー……そうね、弟くん、優しいからなあ」 [稔]「優しさなら、俺より先輩の方が100倍も優しいでしょう」 [早紀]「ううん、そんなことないよ。そうねえ、どんなに我がまま言って振り回しても、嫌そうな顔しながらしっかり受け止めてくれる、弟くんはそんなイメージだなあ」 [稔]「それって先輩が、俺が姉さんにこき使われてるところばっか見てるからじゃないですか」 [早紀]「あはは、そうかも。あ、ねえねえ。ひめっち今日どうしてる?」 [稔]「サボりですよ。家にいます。曰く、『稔くんが寝坊してテキトーな朝ごはん食べさせられたからお腹が痛い』そうです」 [早紀]「ふふっ、目に浮かぶわ。まあもう入試期間で他の子たちも来てないし、サボりだっていじめないであげて」 [稔]「あー……そうだったんですね」 [早紀]「うん、3年生は国立前期終わるまで自由登校よ」 [稔]「そうすると、2月中は姉さんの分の昼飯作んなきゃなんないのか。面倒だなあ」 [早紀]「相変わらずの主婦ぶりね。あ、そうだ。ひめっちに、『例のブツが手に入った』って伝えてみて。そしたら学校に来ると思うから」 [稔]「『例のブツ』……ですか? なんだか先輩に似合わない物騒な響きですね」 [早紀]「気になる?」 [稔]「ええ、まあ……」 [早紀]「ふふっ、すぐ弟くんの目にも入ることになると思うわ。楽しみにしててね」 [稔]「……?」 [早紀]「それじゃ、またね。ひめっちによろしくね、弟くん」 [稔]「あ、はい。ありがとうございました!」 // SE: 足音 [稔]「早紀先輩、相変わらず美人で大人っぽいなあ……あの馬鹿姉といっしょにいるのが信じられん。ぜってえ同い年には見えないよな」 // SE: お腹の音 [稔]「っと、腹減った……教室戻ろうっと」 // SE: 足音 // 暗転 // 放課後 // 背景:廊下(夕方)   [稔]「もう17時ちけえな……すっかり遅くなっちまった」 [稔]「ったくググレのやつ、生徒をいいようにこき使いやがって……。なんで俺がググレの尻拭いしなきゃなんねえんだよ!」 [稔]「ああ、今から帰って夕飯間に合うかな……。この上また姉さんにもいびられるのか。今日は厄日だぜまったく」 // SE:ドアガラガラガラッ // 背景:教室(夕方) // 伊万里立ち絵(影) [伊万里]「あれ、みのりん?」 [稔]「うわっ」 // 伊万里立ち絵(普通) [伊万里]「なあに? おっきい声出して……」 [稔]「ああ、伊万里か。いや、こんな時間に教室に誰か残ってるなんて思わなくてさ」 [伊万里]「ん、まあ中途半端な時間だね」 [稔]「陸部はどした?」 [伊万里]「コーチがインフルエンザかかっちゃってさあ。自主練になったの。しばらく付き合ってたんだけど、特にやれることもなさそうだから戻ってきちゃった」 [稔]「そか、もう帰れるのか?」 [伊万里]「うん。みのりんは?」 [稔]「ググレの散らかした資料室掃除させられてた。今終わったとこ」 [伊万里]「うわあ……お疲れさま、みのりん」 [稔]「もう嫌だ。なんで俺ばっかりこんな損な役回り……」 [伊万里]「九暮先生、あのことしつこく根に持ってるんだねえ……」 [稔]「あれは不可抗力だ! だってまさか、寝ている間にググレがあんな近くまで迫ってきてるなんて思わねえじゃねえか」 [稔]「数学教師なら人の頭が通る軌道くらい計算しろってんだよ、なあ」 [伊万里]「うん……でもつまるところ、授業中に居眠りして起こされて、起きた拍子に九暮先生の顎に頭突きしてすっ転ばせて、おまけに先生のカツラを白日の元に晒しちゃったわけでしょ?」 [伊万里]「目をつけられてもしょうがないんじゃないかなあ」 [稔]「……しくしく」 [伊万里]「よしよし。ね、一緒に帰らない?」 [稔]「おう。久々だな。……一年ぶりぐらいか?」 [伊万里]「……そ、だったっけ。あは、変だね。お隣さん同士なのに」 [稔]「だって、お前いつも陸部の手伝いで忙しそうじゃねえか」 [伊万里]「みのりんが卓球部に復帰すればいいんだよ」 [稔]「ああ、ないない。家事まわすのだけで精いっぱいだよ」 [伊万里]「でも入学したてのころは出来てたじゃない」 [稔]「……あの頃はワシも若かったからのう」 [伊万里]「戻りたいって思うことはないの? あんなに入れ込んでたのに」 [稔]「んー、いや入れ込むったって、趣味レベルだったしなあ……。他の運動部みたいに、やれ地区大会だインターハイだってがつがつしてないからな。うちの卓球部は」 [伊万里]「あのことが、原因なの?」 [稔]「……どうした、突然」 [伊万里]「ずっとね、気になってたの。もしそうなら、みのりんは別に縛られることないのにって――」 [稔]「いや、俺は別件だよ。お前も知らないこと」 [稔]「あのことに縛られてるのは、お前の方だろう?」 [伊万里]「……わかる?」 [稔]「そりゃな」 [伊万里]「……そっか」 [稔]「っと、行こうぜ。これ以上遅くなるとまずい。夕飯が間に合わずに姉さんに半殺しにされる」 [伊万里]「わ、そりゃ大変っ」 [稔]「先行くぜっ」 // SE: 足音(アウト) [伊万里]「あ、待ってよみのりんっ」 // SE: 足音(アウト) // 暗転。夕食時。 // 自宅リビング? ダイニング? [ひめ]「みのるくーん、おねえちゃんおなかすいたなあ」 [稔]「へいへい、今並べるから待って」 [ひめ]「今日はなあに?」 [稔]「ブリの照り焼き。と、筑前煮とひじき豆。あと大根と人参の味噌汁」 [ひめ]「ええええ!? しぶーい。渋すぎるよ稔くんっ」 [稔]「贅沢言わないのっ」 [ひめ]「煮物2品もつくるぐらいなら、シチューとかグラタンにしてくれたらよかったのにぃ」 [稔]「ああ、これ俺が作ったんじゃないよ。伊万里んちのお裾分け」 [ひめ]「え?」 [稔]「今日帰りに伊万里と一緒になってさあ」 // 回想 セピア or 白黒 [伊万里]「あ、そうだみのりん、うち寄ってってよ」 [稔]「ん?」 [伊万里]「おかずのストック分けたげる。ママの作ったやつだけどさ」 [稔]「いやそれは悪いだろ」 [伊万里]「ううん、うちのママ、みのりんたちのことすごく心配してるんだよ。こんなに長い間、保護者が留守にして大丈夫かしらって」 [伊万里]「お料理作って持っていこうかしらってよく話してるから、食べてもらえればすごく喜ぶよ。だから、遠慮しないでっ」 // 回想終わり [稔]「……って。だから、俺が作ったのはブリ照りと味噌汁の2品だけ」 [ひめ]「……」 [稔]「ちょ、なんでそうあからさまに不満そうなの」 [ひめ]「要らない」 [稔]「え? ちょっと、やめて姉さん。なんで皿ごとゴミ箱に入れようとするの?」 [ひめ]「いっちゃんちのご飯なんて、要らないもん」 [稔]「なんでよ、おばさんめちゃめちゃ料理上手いじゃん。見てよこの人参、全部ちゃんと面取りしてあるんだぜ。大きさもみんな揃ってるし、やっぱ細やかさが違うよな」 [ひめ]「……」 [稔]「だから、なんで怒ってるの!?」 [ひめ]「だって、だって……」 [ひめ]「……いっちゃんちの煮もの、煮干しベースなんだもん。ひめ、生臭いの大っきらいなのに……」 [稔]「全然くさくないよ、一口食べてみて」 [ひめ]「嫌。くさいもんっ」 [稔]「高3にもなって食わず嫌いするんじゃありません!」 [ひめ]「食べなくたってひめには分かるもん! 怒鳴らなくたっていいでしょ? みのるくんの馬鹿っ!」 [稔]「分かった、食べなくていいよ。でもせっかくの好意をゴミ箱に捨てなくたっていいだろ? 俺が食べるからそのままおいといてよ」 [ひめ]「……稔くん、おねえちゃんに逆らう気?」 [稔]「え? いや逆らうとかそういうんじゃなくて……」 [ひめ]「おねえちゃんに逆らうとどうなるか、思いださせてほしいのね?」 [稔]「い、いえめっそうもないっ! お、俺はただ姉さんの成長を祈ってっ」 [ひめ]「……ひめのこと、チビって言った?」 [稔]「あ、いやそのそういうつもりじゃなくてっ」 [ひめ]「稔くん。お仕置き、決定ね」 [稔]「ふがっ」 // リボン押し当てられて。背景ぐんにゃり [ひめ]「おねえちゃんに逆らったらどうなるか、もう一度体に叩きこんであげる……」 [稔]「まって、ねえ……さ……」 // 暗転。2日目の朝へ。そこで適当に回収する。