// 背景:職員室 [稔]「ふぅ……これで全部ですかね? 先生」 [九暮]「物足りなそうだな、もっと増やしてやろうか?」 [稔]「いえっめっそうもありません、もうお腹いっぱいです!」 いやまだ昼飯食ってないから腹減って死にそうなんだけどな! [稔]「それじゃ俺はこれで……失礼します」 昼休み。半ば昼飯前の日課となってしまったプリント運びの苦役を終えて そそくさと職員室を後にしようとした、ちょうどその時。 ぐいっ! 何者かが、俺の首根っこをぐいっとふんづかまえた。 [???]「……ウジ宮くぅん」 [稔]「ひっ……そ、その声は……」 ググレカスに勝るとも劣らない性悪教師、英語担当の山崎じゃねえか。 昨日といい今日といい、なんだってこう教師に絡まれまくってるんだ? [山崎]「チミさ、何か忘れてること、なぁい?(^^ )」 忘れてること……? [稔]「ああああ!! そ、そう言えば!」 [山崎]「思いだしてくれた?」 [稔]「今日はLUNARのニューアルバムの発売日じゃないかっ! ありがとうございます、早速今日明日中に買いに行きます!」 [山崎]「……チミは、僕に喧嘩売ってるのかな?(^^メ)」 [稔]「違いました? でもそれ以外に忘れてることなんて……」 [山崎]「先週の課題、チミ、やってないでしょう?」 [稔]「え? やりましたよ」 [山崎]「でも僕の手元には届いてないよ?(^^ )」 [稔]「そんなはずは……だって、先週って確か25日のですよね。俺その日徹夜でやりましたもん。終わった時の朝日がすごくきれいで、思わず窓を開けて叫んだら前の家のじいちゃんにうるさいって怒鳴られました」 [山崎]「うん僕さ、チミんちのご近所さんにまったく興味ないから(^^ )」 [稔]「いえ彼は俺のアリバイの重要な証人です。是非じいちゃんに聞いてみてください。あ、でも残念ながら非常にもうろくしてるので、証言能力には疑問が残りますが……」 [山崎]「だから、そんなこと聞いてないの。今僕の手元にない、それがすべてなの。ね?」 [稔]「そんな、横暴な……」 [山崎]「藤宮ぁ!!」 [稔]「はいいっ!」 [山崎]「僕はね、チミが宿題やらずに落ちこぼれても、そんなことどーだっていいの(^^ )」 [山崎]「でもね、チミみたいなちゃらんぽらんな生徒のせいで、真面目にやってきた子たちが、ちょっとでも馬鹿を見たって勘違いしちゃうのは嫌なのね」 [稔]「だから俺だってちゃんと真面目にやりましたってば」 [山崎]「じゃ今どこにあるのよ、藤宮くぅん(^^ )」 [稔]「それは……先生のところじゃないんですか?」 [山崎]「ないない(^^ )」 [稔]「……」 [山崎]「おやおや、今度はダンマリちゃん? いぃい? ウジ宮くぅん―――」 [山崎]「僕としてもあまりことを荒げたくないんだけど、チミがそんな態度取るならちょっと考えないとなあ。担任の九暮先生に相談させてもらうよぉ?」 [稔]「そんな、たかが課題1回ぐらいで……」 [山崎]「たかが1回? やっぱり確信犯だったんですね(^^ )」 [稔]「あ、いえこれは言葉のアヤで」 [山崎]「そんないい加減な心持ちでいるから、いつまでたっても駄目人間なんだよ。このまま永遠に駄目人間街道を突っ走りたいのぉ? 今のうちに更生しておいた方が身のためだよぉ?(^^ )」 [稔]「……俺ってそんなに駄目人間でしたか?」 [山崎]「うん。でもこうして話していても全く反省の色が見られないし、ちょっと親御さんもお呼びして、真剣に話し合った方がチミのためかもしれないねぇ」 [稔]「親!? いくらなんでも大げさすぎだろっ!?」 [山崎]「ああそうか、チミんち、確かご両親が長いこと海外出張中なんだっけ。まったくいい加減な親だよねえ。高校生の子供おいて二人ともいなくなっちゃうなんて」 [稔]「それは……母さんは親父が体壊したから仕方なく……」 [山崎]「きっとチミたちのこと、全然考えてないんだろうね。良識のある親だったらさあ、絶対子供優先するよぉ。ひどい親を持ってかわいそうだねえウジ宮くぅん(^^ ) だから多少宿題やらなくても仕方ないよねえ」 [稔]「だから……本当にやったのに……」 てか課題1回ぐらいで、なんでここまで言われなきゃならないんだ? うかつにも鼻がしらが熱くなってくるのを感じ、俺は山崎から視線を反らした。 //早紀表示 すると、少し離れたところからこちらをうかがう人影があった。 ウェーブのかかった長い髪。整った優しげな顔。そして巨パイ。 [稔](助けて先輩!) 俺は必死にアイコンタクトを送った。 [早紀](どしたの?) [稔](山崎に絡まれた) [早紀](何かしたの?) [稔](マジでお願い!) [早紀](だって状況がわかんないよ) [稔](埋め合わせしますから!) [早紀](??) だめだ、噛みあってない。 俺はプリンを食べるジェスチャーをした。 [稔](駅前のプリン!) [早紀](え……?) [稔](おごるから! 高い方のやつ!) [早紀](んー、どうしようかなあ) [稔](ふたつ……! いや、4つだ……!) 4倍プッシュ……! [早紀](もう、しょうがないなぁ) [山崎]「ウジ宮くぅん、堂々と余所見? それが先生の話聞く態度なのかな?」 [稔]「っ……すいません」 [山崎]「まったく、チミの人間性は根っこから腐ってるみたいだね(^^ )」 [稔]「お前もなー(^^ )」 [山崎]「……ウジ宮くぅん?」 [稔]「はっ、つ、つい反射的に本音がっ」 [早紀]「先生、ちょっといいですか?」 [山崎]「ん? なんだ、蓬山さんじゃない。今日もかわいいね(^^ )」 [早紀]「藤宮くんをお借りしてよいでしょうか。急ぎの用があるんです」 [山崎]「へぇ、君みたいな優等生とこんなクズに親交があったなんて驚きだなあ。今彼に大切な話をしているところなんだけど、今じゃないと駄目?」 [早紀]「大切な話って、何かあったんですか?」 [山崎]「藤宮くんは英語の課題をやってないんだよ。しかもそれを素直に認めずに、提出したと言い張って認めようとしないんだ」 [早紀]「その課題って、提出日いつごろでした?」 [山崎]「先月の25日だ。もう1週間も前なんだよね」 [早紀]「あら。その課題でしたら彼、ちゃんとやってると思いますよ? その前日にすごく必死になって宿題やってましたもん」 [山崎]「なんで蓬山さんがそんなこと知ってるのぉ?」 [早紀]「たまたまその日、藤宮君の家に遊びに行っていたんです」 [山崎]「え、なんで……? もしかして、チミたち……」 [稔]「いえ、俺んちっていうか姉貴のとこに遊びにきてたんですけどね」 [山崎]「あ……なるほど。だよね。そうだよねえ。ああびっくりした。だよね〜。学園のマドンナたる蓬山さんとウジ宮じゃ、月とスッポン、チョークとチーズだもんねえ」 [稔]「……否定はできませんが仮にも教師がそういう差別的発言はどうかと」 [早紀]「なので、藤宮くんが課題をやったのは確かです」 [山崎]「そ、そう? うーん、でもなあ……」 [早紀]「とりあえず、これ以上ここで話していても平行線でしょう。また日を改めてはいかがですか? 今日は藤宮くんを借りていきますね」 [山崎]「ん……蓬山さんがそこまで言うなら分かったよ。ウジ宮くぅん、今日はもう行っていいよぉ(^^メ)」 [稔]「はいっ、失礼しますっ!」 //SE:足音 //SE:ドア音 //背景:職員室前 [稔]「ありがとうございます! 先輩! ほんとになんとお礼を言っていいやら……」 [早紀]「もー、あんまり無茶させないでよね、稔くん? 下手したらあたし推薦合格取り消されるかもしれないじゃない?」 [早紀]「でも山崎先生もあんまりよね。いつもあんな呼ばれ方してるの?」 [稔]「はぁ……大体『クズ』か『ウジ宮』ですね」 [早紀]「そうだったの……ごめんなさいね」 [稔]「なんで先輩が謝るんですか?」 [早紀]「実は私が生徒会長やってた頃から、何度か山崎先生に対する苦情が来ていたのよ。人格を否定するようなことを言われたってね。でもなかなか事実確認がとれなくって」 [稔]「まああの先生、先輩にはベタ甘そうですもんねえ」 [早紀]「そうなのよ。すごく優しい先生だと思ってたから、今日は少しびっくりしちゃったわ。気付けてよかったわ、ありがとう」 [稔]「俺は何もしてないですよ」 [早紀]「あはは、そうね。ところで、課題はちゃんとやってるんだよね?」 [稔]「もちろんですよ!」 [早紀]「よかった、状況分からないからドキドキだったのよ」 //SE:足音 [伊万里]「みのりーんっ! あれ、蓬山先輩っ!?」 [稔]「お、どした伊万里?」 [伊万里]「あ、うん。さっき参考書借りようとしてみのりんの机の中引っ張り出したらね、先週提出の英語のプリントが見つかって……。急いで提出した方がいいんじゃないかって思って持ってきたの」 [稔]「……え?」 [早紀]「……稔……くん?」 [稔]「ぎゃああああすみません先輩っ、ホントに勘違いしてたんですっ! 不可抗力! うわああごめんなさいすみません許してくださいっ!!」 //SE:暗転 この後、俺は先輩に首根っこをひっつかまえられて山崎のところに連行され、奴の足元に額をすりつけるようにして謝罪させられる羽目になった――。