*mizu0201_1|忘れ物を取りに|FULL //背景『廊下』。BGM『学校的風景其の一 ver.2』。 [Wait time=1000] [MsgLayer visible=true surfase=BASE] 川端康成の小説『雪国』は、その秀逸な書き出しで有名である。[cm] 曰く、『国境の長いトンネルを抜けると雪国だった』[cm] ならば俺はこう始めよう。[cm] [bg file="passage1.jpg" time=1000 mode=UNIVERSAL rule="blind_h.png"] トイレを済ませて廊下に出ると、[l] [bg file="event0201.jpg"] [Wait bgTrans=true] 目の前にうさぎ頭が猛ダッシュで迫っていた。[cm] [bgm file="gakkou01_loop.mp3" mode=NOFADE] [稔]「どぅわっ!?」[cm] [talk idx=0 charName="???"]「……え?」[cm] [MsgLayer id=CHAR_NAME visible=false] 衝突時に発生するエネルギーは、速度の二乗に比例するとひまわり先生が言っていた。[cm] つまりこれだけの速度で移動する剛体にぶつかれば、ものすごく痛いということだ。[cm] [talk idx=0 charName="???"]「ちょっ、どいてどいてええええ!!」[cm] [稔]「無理無理無理無理無理無理っ!!」[cm] [talk idx=0 charName="???"]「きゃああああっ!?」[cm] ――避けられねえっ![cm] //ブラックアウト・シェイク [MsgLayer surface=BASE visible=false] [MsgLayer id=CHAR_NAME visible=false] [Quake time=500 vMaxAmp=50 hMaxAmp=20] [StartQuake] [bg file="black.jpg" showMsg=false] [Wait bgTrans=true] [Wait time=500] [MsgLayer surface=BASE visible=true] [talk idx=0 charName="???"]「イタタタタ……」[cm] [稔]「イテテテテ……」[cm] [talk idx=0 charName="???"]「あなたは別に痛くないでしょ……」[cm] [稔]「……ん?」[cm] [MsgLayer id=CHAR_NAME visible=false] 足元から蛙の潰れたような声がした。[cm] 確かに言われた通り、俺の体はぴんぴんしている。別にどこも痛くない。[l] ……はて、あの剛体はどこにいっちまったんだろう?[cm] 不思議に思いながら目を開けると、[l] [bg file="passage1.jpg" time=800] [Wait bgTrans=true] 足元で、ツインテールの少女が廊下とキスしていた。[cm] [稔]「……えーと」[cm] [稔]「……フェチズムにもいろいろあるのは知ってるが、床愛好とはまたずいぶんと変わった嗜好だな」[cm] [稔]「まあそのおかげで、どうやら俺は衝突をまぬがれたらしいが」[cm] [みずき制服 body=0_0 b=2 e=1_0 m=3 time=500 posX=280 posY=100 dX=0 dY=-20] [talk idx=0 charName="???"]「あたしが抜群の反射神経で避けてあげたの」[cm] [稔]「だそうです。本当にありがとうございました」[cm] [稔]「……ってみずき!?」[cm] [ChgFace id=mizu b=4 e=5_0 m=4] [みずき]「みのる!?」[p] [稔]「お前、廊下は走っちゃダメって小学校時代に習っただろ?」[cm] [みずき]「あは、ゴメンゴメン。でもみのるに被害はなかったでしょ?」[cm] [稔]「いや、寿命が3秒は縮んだな。んで、3階になんか用でもあったのか?」[cm] [みずき]「あ、うん、ちょっとね」[cm] [稔]「昼飯でも掠めに来たか?」[cm] [みずき]「あはは、ごめん、あたしちょっと急いでるんだ」 [稔]「ん? どっか行くのか?」[cm] [みずき]「ちょっと野暮用。じゃね、みのる」 [HideChar idx=0 time=300] [稔]「おーいそんなに走ると足が……[l]ってもう見えなくなっちまったか。[r]  ったく、足の速さはガキの頃からかわんねえなあ」[p] [稔]「しかしホント、何しに3階に来たんだろ。アイツ、まさかまた――」[p] [伊万里]「あっ、みのりん、ちょうどいいところにっ」[p] [稔]「うわっ」[p] [ShowChar id=imar face=n1 time=500 posX=250 posY=0 dst_posX=270] [稔]「……ってなんだ、伊万里かよ」[p] [伊万里]「なんだってなによ。前から思ってたんだけどね、みのりんはボクをいったいなんだと」[p] [稔]「貧乳」[p] [伊万里]「なんだとコラー!」[p] //伊万里(怒り) //シェイク(胸に頭突き) [稔]「げふぅっ」[p] [伊万里]「ったく。ところで……」[p] //伊万里(照れ) [伊万里]「みずきこっちに来なかった……かな?」[p] [稔]「みずきなら向こうに爆走してったが――」[p] [稔]「あいつ、どうしたんだ?」[p] [伊万里]「――え?」[p] [稔]「えらい急いでたみたいだけど、何かあったのか?」[p] [伊万里]「……あー、えーっとね……」[p] [稔]「ん? 何か言いづらいことなのか?」[p] [伊万里]「あ、あはは、言いづらいっていうかー……」[p] [稔]「なんだよ、知ってるんなら話せよ」[p] [伊万里]「……心配……かけたくないって……いうか……」[p] [稔]「なあ伊万里、俺とお前の仲じゃないか」[p] [伊万里]「うー……」[p] [稔]「ったく、お前が夜な夜な豊胸クリーム塗りたくってることから、 実は『彼氏彼女の痴情』の愛読者で、漫画家のサインをもらいにわざわざ大枚はたいて新幹線乗ったことから」 [稔]「小学校の卒業式に担任に告って撃沈して、ピザポテトやけ食いして3kg太ったことから何から何まで知っているというのに、今さら何を隠すというのだね伊万里くん!?」[p] [伊万里]「わーわーわー、そんな昔のこと関係ないじゃないかっ!」[p] [稔]「ふふん、お前の過去の悪事をばらされたくなかったらおとなしく吐くんだな」[p] [稔]「それに、みずきが……その、また変なおせっかいしてるなら、 俺らが止めてやらなきゃいかんだろ」[p] [伊万里]「みのりん……」[p]  ;;伊万里(デフォルト) [伊万里]「……その、ね」[p] ようやく観念したか。[p] [伊万里]「五限目の九暮先生の授業で提出する課題のプリントを忘れちゃって、取りにもどったの」[p] [稔]「忘れたって、みずきがか?」[p] [伊万里]「ううん。高橋さんの」[p] [稔]「高橋さん? 初耳だな。まあ俺も、みずきの学年の連中を全員把握してるわけじゃないが」[p] [伊万里]「あー、ちがうちがう。うちのクラスの高橋さんだよっ」[p] [稔]「うちのクラスだあ?[r] ……ああそっか、5限がググレなのってうちのクラスか」[p] [稔]「でもあの二人、別にそんなに仲良くなかったよなあ」[p] [伊万里]「うん、去年は同じクラスだったから、まあそれなりにはしゃべってけど、 みずきちがその……留年してからは全然だと思うよ」[p] [稔]「じゃあどうしてみずきがそこに出てくるんだ?」[p] [伊万里]「それが、その……」[p] [稔]「――なるほど、お前にみずきが会いに来てるときに、ちょうど高橋美樹が忘れものに気付いたと。んで、それを耳にしたみずきがまた暴走した、と」[p] [伊万里]「うん……」 つまり、みずきはまた『単なるクラスメイト』のために、勝手に貧乏くじを引いたのか――。  ;;改ページ。背景『真っ黒』。伊万里消し、みずき(デフォルト)。BGM『雨の降る街』 如月みずきは――アイツは昔から面倒見が良すぎた。 困っている人がいれば放っておけない性質なのだ。 道に杖をついている人がいれば、荷物を奪ってでも持とうとするし、電車の中では相手が老人であるなしに関わらず席を譲ってしまう。 ……まあ、小太りの女性に譲ろうとして『あたしゃ妊婦じゃないよ!』と怒られるなんてこともあったけど。 そんなみずきに知り合いのピンチという状況を用意してやればどうなるか。 仮にも元クラスメイトなら、高橋も分かるだろうに。 『あの事故』のせいで今のみずき――あの『同い年の後輩』――は……さらに、『人の良さ』に拍車をかけているというのに。 とはいえ、高橋も別にみずきに取りに行かせるつもりはなかったんだろう。 忘れ物に気づいて口にした、たまたまその場にみずきが居合わせた。それだけのことだ。  ;;改ページ。背景『廊下』。BGM『学校的風景其の一 ver.2』に戻す。みずき消し、伊万里(焦りとか泣きとか。シリアスモード)。 [伊万里]「っひっく、えぐっ、ぐひっ」 [稔]「ってどうした、なに突然泣いてんだよ。っていうかもっと品良く泣けんのか」 [伊万里]「ねえ、どうしよう、ねえみのりん、どうしよう、どうしようどうしよう」 [稔]「おい、落ち着け。その鼻水まみれの顔を俺に押し付けるな」 [伊万里]「だってだって、みずきち、まだちゃんと治ってないのに。 あんなに走って、もしどっかで転んでまた事故にでもあったら――」 [稔]「考えすぎだ。みずきもそこまでドジッ娘属性高くないだろ」 [伊万里]「ううん、みずきち、何かに夢中になったら周り見えなくなっちゃうもん」 [稔]「まあ確かにあいつはガキのころから猪突猛進だったけどさあ。でも、お前はゲーセン来ないから知らないかもしらんが、あいつの反射神経は半端ねえよ? ガンシューティングなんて敵が全身現れる前に射殺すし」 [伊万里]「……よく分かんないけどそれってすごいの?」 [稔]「ああすごい。少なくとも俺の10倍はすごい。だから、何の原因もなく事故にあったりなんか……」 と、しまった。失言だ。 馬鹿馬鹿俺の馬鹿。どうしてこう無駄に含みのある言い方しちまったんだ。 [伊万里]「そうだよね……。原因があったから、みずきちは……」 やばい、伊万里がどんどんダークサイドに堕ちていく。 んな今さら気にしてもしょうがないだろうに。 ええい、ままよ。 俺は伊万里の両肩を掴んだ。 [稔]「伊万里」 [伊万里]「ふぇ!? な、なんだよぅ」  ;;伊万里(泣き) [稔]「そんなに過去が忘れられないなら……」 [伊万里]「……え?」 [稔]「俺が……忘れさせてやろうか?」  ;;SE『衝撃音』 [伊万里]「きゃああああああ!?」 [稔]「うぐうううううう!?」 [稔]「や、やるじゃねえか伊万里……。お前の過剰反応を予想してあらかじめ構えていた俺のガードを……かわしてくるとはな……!」 [伊万里]「セ、セ、セ、セ……」 [稔]「フ、両腕でファイティングポーズを取りながら、足を踏みつけるときたか。 しかも小指をピンポイントで……」 [伊万里]「セ、セクハラーーー! セクハラハンタイーーー!!」 [稔]「完敗だ、げふっ……って、もういないか」 [稔]「もう少しエロネタにも対応できなきゃいけないなぁ、伊万里くん。 いじられキャラの道は遠く険しいのだよ」 [稔]「まあこんだけの反応なら、多少は気がまぎれただろ。 俺が体を張ってやった甲斐があるってもんだ。 感謝しろよ、貸しにしといてやるからなー! はっはっは」 なんて強がってはみたものの。 [稔]「――痛ぇ」 [稔]「痛ぇったら、痛ぇ。とにかく痛ぇ。どうしようもなく痛ぇ」 [稔]「くっそ、伊万里め。このつっこみはシャレにならんぞ……」   [稔]「くぉら伊万里、待ちやがれっ! 前言撤回だっ!!  俺の小指ちゃんのオトシマエ、つけてもらおうじゃねえかっ!」 [稔]「『伊万里調教計画~いじられキャラ篇~』、思いっきりハードに修正してやる~~~!!」 //ブラックアウト //背景『教室』、BGM『学校的風景其の一 ver.2』 [稔]「こーがーねーざーわーさぁん」 [伊万里]「はーい、って……み、みのりんっ」 [稔]「やーーっぱり教室に戻ってやがったか。さっきはよくも逃げ出してくれたなあ」 [毒男]「おお、なにやってんだ稔」 [伊万里]「毒さん、助けてぇ、みのりんに調教されるぅ」 [稔]「お前のためだ、伊万里。お前もちょっとは下ネタに耐性つけておかないと社会に出たとき大変だぞ?」 [伊万里]「それは分かるけど」 [毒男]「わかるのかよ小金沢」 [稔]「ならまずはエロトークをマスターしなければならないだろ、なあ毒男」 [毒男]「ああまったくだ」 [伊万里]「毒さんまでぇぇ……これって絶対セクハラだよぅ……」 //立ち絵消し //みずき立ち絵小 [女生徒]「わー、ごめんね。これこれ、助かったよ」 [みずき]「おっけーおっけー、あたしに任せておきなさいっ!」 [稔]「……お」 [伊万里]「あああああっ、みずきちぃぃいい!!」 [みずき]「……あれ、伊万里? それに、みのる?」 [稔]「よぉみずき、お疲れさん。こっちこいよ」 [みずき]「あ、うん。それじゃ美樹ちゃん、あっちいくね」 [女生徒]「うん、ありがとね。キサちゃん」 // みずき立ち絵(中) [みずき]「呼んだ~?」 [稔]「まあちとな。……なんだみずき、にやにやしちゃって」 [みずき]「え、あたし変な顔してた?」 [稔]「いや、幸せそうだなって思ってさ」 [みずき]「そう? ……久しぶりにありがとうって言われたからかな」 [伊万里]「え?」 [みずき]「あ、ううん。なんでもない……あ、みのるっ!」 [稔]「ん? [みずき]「アウトっ!」 [稔]「何がだよ」 [みずき]「髪の毛。もう、寝癖くらいちゃんと直すっ!」 [稔]「げ、気付かなかった……」 [伊万里]「え、それわざとじゃなかったんだ」 [毒男]「わざとってネタ的な意味でかよ」 [伊万里]「うん」 [稔]「お前ら……気付いてたなら教えてくれよっ」 [伊万里]「あははー、タイミング逃しちゃってさあ」 [毒男]「いやなに、お前のリア充ぶりに水を差してやろうと思ってな」 [稔]「……お前がいて本当によかったよ、みずき。いつもありがとな」 [みずき]「え、や、やだなあ、たた、大したことじゃないってば」 [稔]「あ、でもお前も――」 [みずき]「あ……」 [稔]「ほれ、毛先ぼっさぼさになってんじゃねえか。  あーあー、枯れ葉までくっつけちまって……いったいどこ走ったんだ?」 [みずき]「あ、ははっ、裏門越えたときにすっこけちゃってさ」 [稔]「おいおい……お前さあ、もうちょい自分大事にしろよー?  足だってまだ治ってないんだからさ」 [みずき]「だいじょうぶだって。もう、みのるは心配性なんだからっ」 [伊万里]「ど、毒さんっ! なんだろう、入れない空気を感じるよっ?」 [毒男]「諦めろ小金沢、それがメインヒロインと攻略対象外の立場の差ってやつだ」 [伊万里]「なにそれ、攻略対象外なんてボクは認めないよっ!?  ねえねえみのりん、ボクだってちょっと寝癖、ほら見てーここー」 [毒男]「お前のはクセっ毛だろ?」 [伊万里]「毒さんのツッコミなんて要らないよっ!」 [みずき]「でも、いつもありがとね。みのる」 [伊万里]「ああもう、みずきちまでボクを無視して―!!」 [稔]「礼の言葉を言うくらいなら、人助けはほどほどにしとけよ。 まーお前は言って聞くやつじゃないけどさ」 [稔]「せめて、あんまり俺らを心配させんでくれ。 伊万里だって泣きそうになってたんだぜ?」 [みずき]「――え? ってやだ、伊万里と毒男くん、いたんだった……」 [伊万里]「しくしくしくしく」 [毒男]「如月……」 [稔]「そうだ、みずき、これ食えよ。  どうせ飯食う暇なかったんだろ?」 [毒男]「稔、お前マメだなあ」 [稔]「いや……その、今日弁当持ってたの忘れててさ……って、 おいみずき、何赤くなってんの」 『サンキュー、みのるってば気が利く~』辺りの軽いノリを期待してたんだが。 [みずき]「もしかして、みのるの奢り?」 [稔]「……別に金取るほどケチじゃないが」 [みずき]「それってみのるからあたしへプレゼントってことだよね?」 [稔]「まあ、そうなるかな」 [伊万里]「みのりん、ボクにはくれないんだ……」 [みずき]「嬉しいっ!」 [稔]「――!? お、おいっ」 甘い香りが鼻をかすめた。 気がつくと、俺の腕の中にみずきがいた。 腕や胸に伝わる、ほわほわと柔らかな感触。 [伊万里]「ああああーっ! み、みのりん、やめてー! 不潔ー!!」 [毒男]「如月!? 早まるなっ、稔をリア充にしないでくれっ」 教室に、伊万里と毒男の二重唱が響き渡った。